
海外活動
今回、オーロラを見る場所をホワイトホースに決めたのには、
もうひとつ理由がありました。
夫が以前、仕事でインタビューしたことのある
犬ぞりマッシャー、本多有香さん。
その夫から
「この本、絶対好きだと思う」と渡されたのが、
本多有香さんの『犬と走る』でした。
旅先で犬ぞりに魅せられ、
知り合いもいないのに日本を飛び出し、単身カナダへ。
無給のハンドラーとして働きながら犬ぞりを学び、
犬たちと生きる道に人生ごと飛び込んでいった人。
その生き方は、
きれいごとではなく、むしろかなり破天荒で、
ちょっと「やばい」と思うくらいまっすぐでした。
そして、その舞台のひとつがホワイトホース。
それなら私は、
ただオーロラを見るだけではなく、
犬ぞりも体験して、
彼女が生きたこの土地の空気にも触れてみたいと思ったのです。

心は、ものすごく興奮している。
でも、体は寒い。
いや、寒いというより、痛い。
「手足と顔が寒いよ」とは聞いていたけれど、
実際はそんなやわらかいものではなかった。
寒さが、刺さる。
だから装備も本気だ。
上下とも極寒用のスーツ。
さらに特別なミトン。
カイロは両足の表と裏に4つ、手の甲にも貼る。
全身に“温める努力”を総動員する。
ここまでして、やっとスタートラインに立てる。
九州で暮らしている私には、
この準備からしてすでに非日常だった。
でも不思議なもので、
そこまでしてでも行きたいと思っている自分がいる。
体は「やめとけば?」と言っているのに、
心は完全に前のめり。
たぶんこの時点でもう、
犬ぞり体験は始まっていたのだと思う。
犬ぞりに乗る前に、
まず犬たちと触れ合う時間がありました。
最初は少し緊張していたけれど、
それはすぐに消えました。
犬たちは、決して噛みついたりしない。
むしろ、撫でてほしくて大きな体をぴったり寄せてくる。
そのまっすぐさが、なんともかわいい。

少しだけ乗馬をしていた私は、
つい馬のときのように全身を触りながら声をかけていました。
「今から一緒に走るの、よろしくお願いします」
たぶん犬たちは、
そこまで深くは受け取っていないと思う。
でも、こちらとしては大事な儀式みたいなものだったのです。
スタート前になると、
空気が一気に変わります。
さっきまで甘えていた犬たちが、
今度は全身で「早く行こうぜ」と言っている。
落ち着かない。
じっとしていない。
もう、走る気まんまん。
その高まり方が、人間よりずっと素直で、見ていて気持ちいい。
「やらされる」のではなく、
自分から走りたがっている。
その姿を見ているだけで、
犬ぞりは人が犬を使って動くものではなく、
犬たちの意志と一緒に進むものなのだとわかる気がしました。
走り出してから、だいたい1時間。
距離にすると13キロほど。
犬たちは迷いなく進み、
雪を蹴る音と呼吸だけが、静かに続いていく。
森の中は、思っていた以上に静かでした。
白い道。
木々。
犬たちの動き。
その繰り返しの中で、
だんだん自分の感覚も研ぎ澄まされていく。
そして、ふいに景色が変わった。
森を抜けた瞬間、
目の前に雪原がぱあっと広がった。

うわ〜〜。
思わず、声が出た。
一面の雪。
遮るもののない白。
空まで、いつもより広く感じる。
九州で暮らしてきた私には、
こんな景色はまったく初めてでした。
雪が降る、ではなく、
雪の世界に入る、という感じ。
ただ寒いだけではない。
ただ白いだけでもない。
身体ごと、いつもと違う世界に運ばれてきたような感覚でした。
途中で、リーダーの犬が合図を出し、一旦停止。
ガイドがさらっと言う。
「あの子、トイレしたがってると言ってるから、ちょっと待って」
一旦、止まる。
みんなで待つ。

それがなんだか、とてもよかった。
人間の都合でただ進むのではなく、
現場リーダーと合わせて、犬のペースに合わせる。
自然の中で一緒に動くって、
こういうことなのかもしれないと思いました。
速く進むことより、
チームとして無理なく進むこと。
その感覚は、
どこか人の現場にも似ている気がしました。
本多有香さんの本の中で、
私がいちばん驚いたのは、
ホワイトホースからアラスカまで自転車で向かう場面でした。
まさに今、私がいるのは3月末のホワイトホース。
少し寒さがゆるむ時期とはいえ、
目の前に広がっているのは、やっぱり氷と雪の世界です。
空港へ行く道、街へ出る道。
私が車で通ったあの道を、
彼女は野宿しながら、自転車で進んでいった。
ページの中の話なのに、
景色があまりにも具体的すぎて、
急に“伝説”ではなく“現実”として迫ってきました。
ああ、この人は本当に、
思いつきで語る人じゃない。
自分の身体をその場所に置いて、
人生ごと突っ込んでいった人なんだと思いました。
そして同時に、少しだけ思ったのです。
やりたいことを、まずやる。
やり方は、走りながら考える。
その感じ、
私も少し似ているのかもしれないな、と。
もちろん同じスケールではない。
でも、やってみたいと思ったら、
まず動いてしまうところ。
やり方は、そのあとで必死に考えるところ。

今回ホワイトホースまで来て、
犬ぞりに乗って、
あの雪原を見て、
まだ私もやれるぞ、と思いました。
終わったあと、ふと思いました。
これは「乗り物」ではなく、
「関係に乗る体験」だったな、と。
自分でコントロールしないこと。
委ねること。
それでも、ちゃんと進んでいくこと。
犬たちは、最後までまっすぐでした。
人よりもずっと、シンプルに、強く。
あの時間を思い出すと、
少しだけ、自分も素直になれる気がします。
そして何より、
「自分で全部頑張らなくても、前に進める世界がある」
ということを、身体で知った気がしました。

犬に引かれて進むという体験は、
思っていた以上に、
今の自分に必要なものだったのかもしれません。
次回は、番外編。
今回の旅で見えてきたのは、
景色だけではありませんでした。
人の関係や、社会のあり方、
そして「失敗との向き合い方」。
カナダプレイスで出会った
いくつかのストーリーを通して、
そのことを少しだけ言葉にしてみます。
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