
教育トピックス
先日、会社で少し驚いたことがありました。
私の会社MIKI・ファニットには、キッズクラスから育った卒業生たちが、今は先生やスタッフとして多く活躍してくれています。
子どもの頃にレッスンに通っていた子たちが、今度は子どもたちの前に立つ。
受付に入り、保護者の方と関わる。
講師となり、社員になっていく人もいます。
地域の中で、次の世代を支える側になっていく。
これは、私たちにとって本当に嬉しい循環です。
そんな若いスタッフの一人が、受付フォローに入って間もない時のことです。
電話が鳴っていました。
すると、そのスタッフが少し戸惑いながら、こう言いました。
「家に電話がないので、電話を取ったことがなくて初めてです。ドキドキしてしまいます」
その言葉を聞いて、私は一瞬驚きました。
でも、すぐに思いました。
そうか。
今は、そういう時代なんだ。
若い世代の家庭では、固定電話がない方が多数派です。
デジタル庁の調査では、その保有率は全体は62.5%ですが、20代では33.0%、30代では25.9%にとどまっています。
20代の約7割、30代の約4分の3は、自宅に固定電話を保有していません。
(この数字は家族と同居の人も含まれるため、一人暮らしの若い人で固定電話をある人はさらに少ないはず。)

私たち世代にとって電話といえば、少し懐かしい記憶もあります。
好きな人の家に電話をかけて、本人ではなく家族の方が出た時の、あのドキドキ。
「あ、あの……〇〇さん、いらっしゃいますか」
声が裏返らないように必死。
後ろで家族に聞かれていないかも気になる。
そして、本人に代わった瞬間、すでに心拍数は運動後。笑
電話には、もともと少し緊張がつきものだったのかもしれません。
ただ、私たちはそのドキドキを、何度も経験しながら慣れていきました。
でも今の若い世代は、その「慣れる機会」自体が少ない。
これは、単に
「最近の若い人は電話が苦手」
という話ではないのだと思います。
経験していないことは、誰でも怖いのです。
「できない」のではなく、
「まだ経験していない」。
「苦手」なのではなく、
「入口のつくり方を知らない」。
そう考えると、若い人たちの戸惑いや慎重さの見え方が、少し変わってきます。
そんなことを考えていた時、島根県立大学で担当させていただいた授業の感想が届きました。
島根県立大学の村岡詩織さんからご依頼をいただき、
「コミュニティデザイン論2026」の授業を1コマ担当させていただいた時のものです。
島根県立大学の地域政策学部地域政策学科は、島根という地域そのものをフィールドに、地域の課題や可能性を学ぶ学科です。
学生さんたちは、地域経済経営、地域づくり、地域公共など、それぞれの視点から地域を見つめています。

若い人はコミュニケーションが苦手?
今回お声かけくださった村岡さんは、島根県立大学でインクルーシブデザインや行政サービスデザインを専門にされている先生です。
そして実は、私にとっては大学院の修士課程からの同期。
今も同じゼミで学び合う仲間です。
村岡さんは、子育て3人をしながら研究を続け、島根から福岡まで、車と新幹線を乗り継いで大学院に通っている方です。
……いや、私もたいがい動き回るタイプですが、
村岡さんも相当です。笑
静かに見えて、芯が強い。
淡々としているようで、行動量がすごい。
そして、地域の現場とデザインをつなぐ視点を、ずっと持ち続けている方です。
そんな村岡さんから、
「現場で生まれた実践を、地域を学ぶ学生さんたちに届けてほしい」
というバトンをいただいたように感じました。

講義後、読ませていただいた感想は84件。
学籍番号ベースでは83名分の声でした。
コース内訳は、地域経済経営コース38件、地域づくりコース33件、地域公共コース13件です。
感想を読みながら印象的だったのは、学生さんたちが、私の話を単なる起業体験や面白い人生談としてではなく、自分の生活や将来に引き寄せて考えてくれていたことです。
特に多かったのは、
「人との関係・コミュニケーション」
「行動・挑戦・一歩踏み出すこと」
に関する言葉でした。
その中で、私の中で一番ヒットした言葉があります。
「真似できないし、迂闊に参考にしてはいけないタイプ」
……はい。
大変冷静な分析です。笑
この「迂闊」という言葉そのものが出てきたのは、84件中1件だけでした。
でも私は、この一言が今回の学生さんたちの反応を、とてもよく表していると感じました。
「すごい」と思う。
「面白い」と感じる。
「圧倒された」と書く。
でも、そのまま真似したら危ないとも思っている。
感動しながらも、冷静。
憧れながらも、自分との距離を測っている。
面白がりながらも、現実的に見ている。
そこに、現代の学生たちの大事な感性が表れているように思いました。

よく今の若い人たちは、
「消極的」
「失敗を怖がる」
「前に出たがらない」
と言われることがあります。
でも、今回の84件の感想を読む限り、私は少し違う印象を持ちました。
学生さんたちは、動きたくないのではありません。
むしろ、よく見ています。
誰かの勢いや成功談に、簡単には乗らない。
その裏にあるリスクも見る。
自分に合うかどうかも考える。
そして、無理に背伸びをせず、自分の足元に置き換えようとしている。
これは、決して弱さではなく、現代を生きるうえで必要な慎重さでもあると思います。
私の講義では、主婦から地域の親子サークルを始めたこと、コラムを書いたらサーバーが落ちたこと、大企業に飛び込んだこと、大学院に進学したことなど、かなり実践寄りの話をしました。
学生さんたちは、それを
「行動力がすごい」
「圧倒された」
「真似はできない」
と受け止めてくれていました。
そうですよね。
私も自分で振り返って、時々そう思います。笑
この人生を、
「はい、皆さんも明日からどうぞ!」
とは言えません。
私も、迂闊に真似はおすすめしません。笑
でも、そこで終わっていなかったことが、とても印象的でした。
学生さんたちは、私の話をそのまま真似しようとはしていませんでした。
むしろ、
「自分のできるところから動いてみようと思った」
「まずは小さなことから始めたい」
「地域の人と関わってみたい」
という方向に、自分の中で置き換えてくれていました。
私はそこから、若い人たちは「動けない」のではなく、
自分に合った入口を探しているのだと学びました。

今回の感想の中で、とても印象に残った言葉がありました。
「コミュニティデザインで、地域コミュニティをつくっていく勉強をしている私なのに、コミュニケーションが苦手」
この言葉は、とても正直で、そして今の学生さんたちのリアルを表しているように感じました。
コミュニティデザインを学んでいるからといって、最初から人と話すのが得意なわけではない。
地域に関心があるからといって、すぐに地域の人に声をかけられるわけではない。
人とのつながりが大切だとわかっていても、自分から一歩踏み出すのは怖い。
この声を読んだ時、若いスタッフの電話の話と、私の中でつながりました。
地域を学んでいるからといって、最初から人と話すのが得意なわけではない。
先生として働いているからといって、最初から保護者対応が得意なわけではない。
社会人になったからといって、急に電話に慣れるわけでもない。
実際、一般的な調査でも、大学生のコミュニケーションへの苦手意識は少なくありません。
JTBコミュニケーションデザインの調査では、大学生の54%がコミュニケーションを苦手、またはやや苦手と感じているという結果があります。
また、苦手な場面としては、「複数人の前で発表すること」が75%、「初めて会う人と話すこと」が63%とされています。

一方で、大学生協の調査では、大学生の93.0%がSNSを情報収集やコミュニケーションツールとして利用している一方、「発信もしている」は35.3%とされています。
つまり、人とつながっていないわけではありません。
ただ、発信すること。
初対面の人と話すこと。
対面で自分から声をかけること。
そうした場面では、慎重になる人が少なくないのだと思います。
私は、コミュニケーションが苦手だと感じることを、必ずしも弱点だとは思いません。
苦手だと感じる人は、
人と関わるときの緊張を知っています。
初対面で声をかける怖さも、
何を話していいかわからない戸惑いも、
輪の中に入る難しさも、
きっとよく知っています。
だからこそ、同じように不安を感じている人に気づける。
ひとりでいる人に、そっと目を向けられる。
無理に盛り上げるのではなく、安心できる入口をつくれる。
コミュニケーションが苦手であることは、必ずしも弱点ではありません。
人と丁寧に関わるための、大切な感度になるのだと思います。
表1:感想から見えた、学生たちの関心と学び キーワードベース分類

(1つの感想が複数のテーマにまたがるため、合計は84件を超える)
今回、学生さんたちの感想を読ませてもらいながら、
「これは、うちの若手の先生たちにも伝えなきゃ」
と思いました。
授業をさせてもらったのは私ですが、
学ばせてもらったのも、私の方でした。反省です。
若い人たちに対して、私たち大人はつい、
「もっと積極的になりなさい」
「自分から話しかけてみなさい」
「失敗を怖がらなくていいよ」
と言ってしまいがちです。
もちろん、その言葉自体は悪くありません。
でも、はっぱをかけるだけでは、最初の一歩が見えないことがあります。
電話を取ったことがない人に、
「落ち着いて出れば大丈夫」
と言うだけでは不安は消えません。
初めて地域の方に声をかける人に、
「積極的に話してきて」
と言うだけでは、何を話せばいいのかわかりません。
必要なのは、気合いよりも、入口です。
たとえば、マニュアルだけをポンと渡すのではなく
「電話は、まず『お電話ありがとうございます。MIKI・ファニットです』と言えばいいよ」
「相手の名前が聞き取れなかったら、『恐れ入ります、もう一度お名前を伺ってもよろしいですか』と言えば大丈夫」
「保護者の方には、『今日、〇〇ちゃんがこんなことを頑張っていました』と一つ伝えてみよう」
「会議では、いきなり立派な意見を言わなくても、『私はここが少し気になりました』から始めていいよ」
こうした具体的な言葉の例があるだけで、最初の一歩はぐっと小さくなります。
そして、もう一つ大事なのは、試運転を応援することです。
いきなり本番で完璧にできなくていい。
まずは隣で一緒にやってみる。
一度ロールプレイしてみる。(いま弊社もここを先輩がコーチで試運転中)
失敗しても笑ってやり直せる場をつくる。
終わった後に、「今のここ、よかったよ」と具体的に伝える。
そうやって小さな経験を重ねるうちに、
「怖い」
が、少しずつ
「やったことがある」
に変わっていきます。
電話の取り方も、
地域の人への声のかけ方も、
保護者の方との関わり方も、
チームの中で意見を言うことも。
最初からできなくていい。
でも、安心して試せる場があれば、人は少しずつ経験を積んでいけます。
大人の役割は、
「前に出なさい」と背中を強く押すことだけではなく、
「ここからなら出られそう」と思える小さな段差をつくることなのだと思います。
授業を受けてくれた皆さんへ。
皆さんの感想を読んで、私はとても希望を感じました。
慎重で、冷静で、でもちゃんと心が動いている。
「自分には無理」と切り捨てるのではなく、
「自分なら何ができるだろう」と考えている。
その姿勢は、これから地域に関わっていくうえで、とても大切な力です。
コミュニケーションが苦手でも大丈夫です。
苦手だからこそ、誰かの緊張に気づける。
自分が不安だったからこそ、誰かに安心できる入口をつくれる。
うまく話せない経験があるからこそ、言葉にならない気持ちにも寄り添える。
地域づくりは、特別な誰かだけがするものではありません。
挨拶すること。
笑い合うこと。
応援すること。
相手の変化に気づくこと。
その一つひとつが、地域をつくる力になります。
そして、皆さんはもう、その入口に立っています。
地域を学んでいる。
人との関わりに悩んでいる。
自分にできることを探している。
それは、立派なスタートです。
くれぐれも、迂闊に私の人生を丸ごと真似しないように。笑
無理に大きな挑戦をしなくていい。
いきなり地域を変えようとしなくていい。
全部ホームランにしようとしなくていい。
でも、もし目の前に小さな玉が来たら、
ちょっとだけ打ってみてください。
挨拶してみる。
声をかけてみる。
気になる活動をのぞいてみる。
誰かの挑戦を「いいね」と応援してみる。
その一打が、いつか誰かとの関係をつくり、
地域の未来につながっていくかもしれません。
ありがとうございます。
皆さんと会えてよかったです。
皆さんの一歩を、心から応援しています。
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参考データ:
デジタル庁「日本のデジタル度2021」
JTBコミュニケーションデザイン「コミュニケーション総合調査」
全国大学生活協同組合連合会「第59回学生生活実態調査」